189話

ウィノナ・サリバンがナイトクラブの前に立ってからさほど時間は経っていなかった。支配人が慌てた様子で駆け寄ってくる。

「ベイリー夫人、こちらへ。ベイリー様がもう限界でして」

ウィノナは困惑し、問い返した。「死にそうなの?」

支配人は答えなかった。

個室に入ると、支配人が言った「限界」の意味がようやく分かった。

ザッカリー・ベイリーがテーブルに突っ伏している。テーブルの上には空になったボトルが散乱し、あちこちに酒がこぼれて、ひどい有様だった。それでも、彼に嫌悪の色は見えない。上着はソファに投げ捨てられ、薄いシャツ一枚になっていた。袖は肘まで無造作にまくり上げられ、襟のボタンがいくつも外さ...