章 9

「蘇曄がいたお陰で、二人は簡単に人混みを切り抜け、メディアから脱出することができた。唐杺はようやく安堵のため息をついたが、蘇曄の腕から離れた時、自分の口紅が彼の胸元から覗く白いシャツに付いていることに気づいた。特に銀色の模様が入った西洋スーツと相まって、その赤い口紅の跡が一層目立っていた。

こういった場では、蘇曄の出席は明らかに蘇家全体を代表するもの。彼の装いは細部に至るまで完璧だったのに、この思いがけない唇の痕だけが例外だった。唐杺は心の中で思った。衣服の問題だけと言っても、その衣服は蘇曄が着ているのだから、考えてみれば単なる服の問題ではなくなってしまう。唐杺は慌てて顔を上げ、蘇曄を見つめ...