章 155

「見なかったことにして、早くデータを出してくれ。君は出て行って」

冷凛はそう言い終えると、なるほどといった様子で口元に笑みを浮かべた。

ノックの音がして、冷凛は「どうぞ」と返事をしたが顔を上げなかった。これまで井燃が彼のオフィスにいる時は、膝の上に座ってキスをせがむか、ソファに寝転んでゲームをしているかのどちらかだった。今のように机の向かい側に俯いて立っているなんてことは一度もなかった。足元には二つの椅子があるのに、井燃はその間に立ち、何も言わなかった。

「何か用か」冷凛はパソコンを見たまま言った。理性が侵すことのできない雰囲気を醸し出している。

「会社にいるか確認したくて」井燃はこの素...