章 940

小野碧は今日、自分の「術」を使う勇気がなかった。目の前にいるのは野田家の若だんなだったからだ。若だんなに媚薬で惑わすなど、命が惜しくないとでも言うのだろうか。だから野田一郎の前では、小野碧は女としての魅力だけを発揮するしかなかった。小野碧は野田一郎に長い間憧れていた。大島雄より若いだけでなく、野田家の跡取り息子でもある。もしこの若だんなと関係を持てたら、これからの人生、何も心配することはないだろう。

野田一郎もまた善人ではなかった。小野碧が積極的に誘ってくるのを見て、彼女がここで一度関係を持ちたいと思っていることをすぐに理解した。この時、野田一郎は小野碧をじっと見つめ、彼女が自ら近づいてくる...