章 81

電話のベルが突然鳴り、墨星澤は携帯を見下ろし、目配せで電話に出ることを示した。

二人は同時にほっと息をついた。

雲想は恥ずかしそうにエプロンを引っ張り、もうこんな馬鹿な質問はしないと心に決めた。

「もしもし~」

「あ、墨社長、企画書をメールでお送りしました」電話の向こうの人が恭しく言った。気のせいかもしれないが、墨社長のあの「もしもし」は、いつもより温かみがあるように感じた。

「ああ、ご苦労」

電話の向こうの人は思わず携帯を落としそうになり、何度も電話番号を確認した。間違い電話ではない。

墨社長がこんなに気遣うようになったのはいつからだろう。

「墨、墨社長」電話をかけた人は唾を飲み込みながら、...