章 2255

李南方は思い出した。

それは十年前のある日のことだ。

漆黒の闇に包まれた夜、アルプス山麓の花畑の中で。

彼は大地に横たわり、果てしない星空を見上げていた時、突然、一人の人間が空を飛んでいくのを目にした。

彼は確信していた、あれは間違いなく人間だと。

翼はなく、ただ手足だけを持ち、体を前傾させ、何かを抱えながら、地上から百メートルも離れていない低空をゆっくりと漂っていった。

その人物の飛行速度はさほど速くなかった。

だからこそ、李南方は何度も目をこすりながらも、はっきりとその姿を捉えることができたのだ。

当時の自分がどんな心境だったのか定かではないが、ただ単純に地面から飛び上がり、空を飛ぶ人物に...