章 2570

安二虎は遠くへは行かず、ドアの外で待機しながらトイレの中の様子を窺っていた。中から全く物音がしないことから、モリヤが実際には用を足す必要などなく、きっと何かを考え込んでいるのだろうと察した。安二虎は二人の関係がここまで来たなら、次の段階に進むべき時だと感じていた。

アダムスとの面会が控えていることを考えると、時間に余裕はない。もたもたしている場合ではなかった。そこでドアをノックすると、中のモリヤはびっくりして飛び上がった。こんなタイミングで安二虎がトイレのドアをノックするとは思ってもみなかったのだ。「誰?」安二虎だと分かっていながらも、彼女はそう尋ねた。

「僕です、奥様。お腹の調子が悪くて...