第550話

体が追いつく前に、母は私を抱きしめていた。サラの力がゆらぎ、ムーンライズにあるエラ叔母の宮殿の上層階にある豪華な赤い絨毯の上に灰のように降り注いでいた。

金色の装飾が視界をぼやけさせる。一瞬、感覚が狂ったかと思ったが、懐かしい香りと声が私を現実に引き戻した。

ゆっくりと母の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。

長い間、私たちは何も言わなかった。つま先立ちして顎を母の肩に乗せ、目を閉じて母の甘い花の香りを吸い込む。何十年も同じ香水をつけている。子供の頃からずっと変わらない香り。

「ママ」と私はイチゴの香りがする髪に向かって囁いた。

母は静かに震えながら泣き、私の頭を抱えながら少し離れた...