第62話

ダリアの視点

深呼吸をして肺いっぱいに空気を吸い込みながら、ドアを開ける前に落ち着こうとした。オフィスを見回して周囲を確認した後、ジェイソンと目が合った。胸の中で何かが跳ねるのを感じた。彼は革張りの椅子に座り、背もたれに寄りかかっていた。目の前にノートパソコンがあったから、おそらく作業中だったのだろう。彼の顔にほんの少しだけ笑みが浮かんだ。

「おはよう、トンプソンさん」私が入ってくると彼は言った。トンプソンさん?そうだった、どうして忘れられたんだろう?

仕事中は、あなたは私の上司のスミス社長。でも二人きりになると、クラブで出会った見知らぬ男性、ジェイソンになる。

私にも同じことが当ては...